不妊症とは、妊娠を望む健康な男女が特に避妊を行わずに性交渉をしているのに妊娠に至らないものを言います。不妊症の定義として、世界保険機構(World Health Oraganization:WHO)では、「1年以上の不妊期間を持つもの」とされています。

一般不妊治療とは、不妊症の原因検索のための検査や、タイミング療法人工授精といった不妊患者さんに提供する治療の総称です。基本的には保険適応となります。

一般不妊治療で行う検査や治療に対して、助成金が出る場合があります。

不妊治療助成金制度について

不妊の原因&検査

不妊症の原因は多岐にわたります。しかし、それらの原因は検査をしなくては明らかになりません。適切な検査で得られた情報を基に、患者さんごとの治療方針が決定します。また検査ごとに施行可能な時期が決まっています。当院で行なっている不妊症検査を紹介します。

不妊原因

不妊症検査を行う時期

排卵因子

月経周期の乱れや不正出血などの症状がある方は当てはまる可能性があります。また、急激な体重の増減により排卵障害が引き起こされる場合もあります。その他にも多嚢胞性卵巣症候群や早発卵巣機能不全なども含まれます。

→検査方法:基礎体温表の記入(低温期と高温期の二相性の確認)、超音波検査(卵胞計測)、ホルモン採血検査、AMH(抗ミュラー管ホルモン)

→対応策:排卵誘発剤を使用します(内服薬、注射)

子宮因子

子宮は妊娠において受精卵が着床する部位です。子宮にできた子宮筋腫や子宮内膜ポリープが着床障害を引き起こす可能性があります。また、子宮の先天的な奇形なども着床障害の原因となることがあります。

→検査方法:子宮鏡検査、子宮卵管造影検査、超音波検査(3D超音波含む)

→対応策:子宮筋腫やポリープ切除術等を先行して行う場合があります

卵管因子

卵管は精子と卵子が出合い、受精をする場所です。卵管が閉塞していると自然妊娠はできません。卵管が閉塞する原因としては、クラミジア感染症や子宮内膜症などがあります。

→検査方法:子宮卵管造影検査

→対応策:卵管閉塞の場合は卵管鏡手術や体外受精へのステップアップを計画します

男子因子

射出される精液中に、ある程度の数や運動性を持った良好な精子がいないと、妊娠には至りません。造精機能に問題がある場合や、精子の通り道である精管が閉塞しているような場合など、様々な原因が考えられます。ムンプス性精巣炎や停留精巣,精索静脈瘤の既往がある場合は、精子の数や運動性に問題がある可能性があります。

→検査方法:精液検査、ホルモン検査、染色体検査

→対応策:精子所見改善のための薬物療法を提案します。無精子症の場合は連携施設での精巣生検を行う場合もあります。体外受精へのステップアップも提案します

免疫因子

精子の動きを阻害する抗体が産生され、抗体により精子の子宮卵管内の通過障害や、受精障害などが引き起こされます。自覚症状はなく、検査により抗体産生の有無を調べる必要があります。

→検査方法:抗精子抗体検査(採血)

→対応策:精子不動化抗体価によって治療方針を決定します。抗体価が高ければ体外受精へのステップアップを勧めます

治療方法

タイミング療法

タイミング療法は、一般不妊治療の中でも一番最初に取りかかる治療法です。自然妊娠に近い形での妊娠を目指す治療法です。妊娠するためには排卵日付近での性交渉が必要であり、通院いただくことで、確実な排卵日を推定します。

タイミング療法の流れ

1.月経中に、過去の月経周期や基礎体温表を参考に、超音波での卵胞計測の日程を指示します。必要であれば排卵誘発剤の内服を併用します。

2.指示された日に超音波を行い、卵胞計測を行い排卵日を推定し、性交渉のタイミングを指示します。

3.性交渉後に再診いただき、基礎体温や必要であれば超音波や採血を行い、排卵が実際に行われたかを確認します。

4.排卵推定日から約2週間後に再診いただき、尿検査で妊娠判定を行います。月経が来ていた場合は次周期に向けた計画を行います。

タイミング療法として、通常は1〜4のサイクルを複数回繰り返しても妊娠に至らない場合(最大でも6サイクル)は、次の人工授精へとステップアップをお勧めしています。

人工授精

医師が排卵日を推定するところまでは、タイミング療法と同じ流れです。人工授精の当日にご主人の精子を専用のカテーテルを用いて子宮内に注入します。タイミング療法で妊娠しない場合の次のステップとして選択され、実際に妊娠率もタイミング療法より上昇します。

人工授精の流れ

1.超音波で排卵日を推定し、人工授精を行う日時を患者さんの予定も含めて決定します。

2.人工授精当日に、お家で採取した精子を持参いただくか、ご主人に来院いただき院内の採精室で精子を採取します。精子を院内で洗浄濃縮調整します。精子調整には早くても30分程度かかります。

3.調整した精子を専用のカテーテルで子宮内へ注入します。人工授精の手技は簡単で、時間的にも数分です。人工授精後は問題なければすぐにご帰宅いただけます。

4.人工授精後、約2週間後に再診いただき、尿検査で妊娠判定を行います。

人工授精は保険診療です。年齢や回数に制限はありません。ただし、当院の人工授精の累積妊娠率の結果からも、5〜6回人工授精を行っても妊娠に至らない場合は、体外受精へのステップアップをお勧めしています。